中国の支援によるインドネシア高速鉄道とその代償

インドネシア大統領選が10月14日に行われ、次期政権の誕生が期待されています。ジョコ・ウィドド大統領の政権下で、中国の支援を受けて多くのインフラ整備が進行しました。その代表例が、中国が受注し建設したジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道「ウーシュ(Whoosh)」です。昨年10月の開業以来、このプロジェクトは多くの関心を集めていますが、経済的な負担も大きく、新政権の対中関係が注目される背景となっています。

短期間での急成長と「ウーシュ」の影響

首都ジャカルタと西ジャワの都市バンドンを約45分で結ぶ高速鉄道ウーシュは、開業からわずか2か月で約100万人の利用者を記録しています。この高速鉄道は、通勤者や観光客にとって大変便利な移動手段となり、国内での歓迎ムードが広がっています。インドネシア語で「時短、最適な運転、優れたシステム」の意味を持つ「ウーシュ」という名称も親しみやすく、公共交通としての利用が増加しています。

一方で、この「夢のプロジェクト」の実現には多額のコストがかかっており、当初の予算から30%増となる約72億ドル(約1兆800億円)まで膨らみました。この資金の大部分は中国からの借り入れによるもので、当初の「インドネシアの公費負担を避ける」という条件は崩れ、最終的には国費の投入が避けられませんでした。

対中依存と経済的なリスク

国内有力紙のジャカルタ・ポストは、「ウーシュは今後の国家予算に大きな負担をかける」と警告を発しています。同紙は「インフラ事業は指導者の野心や一国との関係改善のための手段ではなく、国家の長期的な利益を考慮すべきだ」とし、ジョコ政権の対中接近を批判的に報じました。

ジョコ大統領は長い任期の中で米中間のバランスを取ろうと努め、特に中国からの実質的な支援を受けてきましたが、その結果、中国への依存度が高まっています。その影響が特に顕著に表れているのが、インドネシアの資源産業です。政府は2020年からニッケル鉱石の輸出を禁止し、国内での加工産業の発展を目指していますが、この規制の影響で中国からの直接投資が急増しました。加工されたニッケルは中国に輸出され利益を生んでいますが、インドネシアの資源が中国に支配されているのではないかという懸念も広がっています。

新政権の課題と対中関係の展望

14日の大統領選挙において、中国リスクが大きく取り上げられることはありませんでした。各候補者はインフラ整備に対する中国の支援を引き続き歓迎している姿勢を示しています。しかし、国立研究革新庁のオニ・ビントロ研究員は、首都移転に関するプロジェクトについても中国が積極的に投資意欲を示しているとし、新政権は外交的なバランスを慎重に取る必要があると述べています。